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2016年4月

そうちゃん・20歳になる/「忘れないよ」

今日は、そうちゃん(長男・知的障害あり)、20歳のお誕生日。

長かったような、あっという間だったような20年でした。

この「忘れないよ」は、昨年の夏、新聞に作品募集があり、応募したものです。

(佳作でした)

久々のブログ、今日はこれをお届けします(笑)!

 

「忘れないよ」

 ふわりとした手。

そっとその手をにぎると、じいわりじわりと温もりがつたわってくる。

それは、お日さまの光をいっぱいにあびたふっくら座布団のよう。

そんなあたたかさ。

 

 まだうすっぺらな胸。

ふと手をあててみる。

どっくんどっくん、どっくんどっくん。

少しもリズムを変えることなく、力強く刻まれるその音に耳を澄ます。

「ちゃんとボクは、ここにいるよ。」、とその音は証明する。

 

 夕日にそまっていっそう茶色く光る髪に頬をよせる。

ふと、子供の頃家にいた雛を思い出す。

思わず息をスーっとすいこみ、フーっとはく。

うっとりする香り。

 

深く目をつぶってみる。

「何もちがわないじゃないか。」

「どこもかわらないじゃないか。」。

そんな思いが次第に静かにこみ上げてくる。

それは悲しみ。

体の底からわき上がってくる確信。

そして希望。

 

 あれから十九年。

迷いがあるときは、いつも君の手をにぎり、胸に手をあて、髪に頬ずりしてきた。

 

幼い頃、私は小さな子供が好きだった。

ある日、母に言ったことが頭の片隅にかすかに残る。

「ママ、赤ちゃんって、かわいいよね。

ねえ、私ね、大きくなったら、いつまでも赤ちゃんのまま大きくならない赤ちゃんがほしい!」。

そして、私の赤ちゃんとして初めて生まれてきてくれたのが君だった。

思いがけず、あの時の願いが叶ってしまったのかな。

 

君は十九歳。

背がのびて、とっくに私をみおろすようになった。

けれど、まだおしゃべりすることはできない。

身の回りのいろいろを自分ですることはできない。

でもね、君はいつもニコニコととろけそうな顔をしながら私のことを「ママ。」とよび、パパのことを「パパ」とよんでくれるよ。

それがどれほどうれしいことか。

それがどれほどありがたいことか。

 

そんな君が家を出て、もうすぐ一年になるね。

それは、君が小さい頃からずっと目標にしてきたこと。

「学校を卒業したら、なるべく早くこの子を手放そう。君ひとりになっても、しっかり前をむいて生きて行けるように、思いきって手放そう。そして、新しい生活を見守り、ずっと君を応援していこう。」

 

でもね、空があかね色になる頃になると、きまってバッサリと翼をもぎとられたような気持ちになったよ。

一歳か二歳かの知力しかもちあわせていない君を手放すことは、果てしなく遥かな思い。

それは、ふわふわと飛ぶタンポポの綿毛。

風に流されるままに飛んでいくタンポポの綿毛を、ただただおいかける気持ち。

そのうちに、どんどん空高く飛んでいくものだから、たちどまり、行く手を見送っていくしかないような、そんな気持ちだったよ。

 

だけどね、目をとじて思い出すの。

その手のぬくもりと胸のどくどくと髪の香りを。

そうするとね、心が静まってくるんだよ。

そして、心が決まってくる。

 

今日もあなたのいる南の空を眺めています。

夏の入道雲がもくもくとしていて、さわやかな風が耳元でそよそよしています。

お元気ですか?

そうちゃん。

お元気ですか?

 

 

 

 

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